病気や体力の変化があっても前向きに:心のレジリエンスを高める健康との向き合い方
身体の変化と向き合う:心のレジリエンスが問われるとき
高齢期に入りますと、健康への関心は自然と高まるものです。定期的な健康診断を受けたり、体のちょっとした変化に敏感になったりすることも増えるのではないでしょうか。また、これまで経験したことのない体調の変化を感じたり、病気と診断されたりすることもあるかもしれません。
健康診断の結果に一喜一憂したり、病気の診断にショックを受けたりすることは、誰にでもある自然な感情です。しかし、これらの身体的な変化や健康上の課題にどのように向き合うかは、その後の心の状態や、人生後半をどれだけ前向きに過ごせるかに大きく影響します。
この記事では、高齢期における健康との向き合い方を、心のレジリエンス(回復力や適応力)を高めるという視点から考えてまいります。身体の変化をネガティブに捉えるだけでなく、それを受け入れ、しなやかに対応していくためのヒントをお届けできれば幸いです。
健康診断の結果や病気への心理的な反応を知る
健康診断の結果が思わしくなかったり、病気と診断されたりしたとき、私たちは様々な感情を抱きます。不安、恐怖、ショック、怒り、悲しみ、時には否認(現実を受け入れられない気持ち)など、その反応は多様です。これらの感情は、自分自身の体や健康、そして将来への漠然とした不安が引き起こす、ごく自然な心理反応であることをまず理解しましょう。
これらの感情を抑え込もうとしたり、見て見ぬふりをしたりするのではなく、「今、自分はこのような気持ちを感じているのだな」と、その感情に気づき、認めることから始めるのが第一歩です。これは、心理学でいう「感情のラベリング」や「受容」にあたり、自分の内面を理解し、整理する上で非常に有効な方法とされています。
情報との賢い付き合い方
健康に関する情報は世の中に溢れています。特に病気と診断された後などは、インターネットや書籍、人づてに様々な情報が入ってくることでしょう。しかし、その全てが正確であったり、自分に合ったものであったりするとは限りません。
信頼できる情報源を見極める「情報を選ぶ力」が、心の安定のためには不可欠です。最も信頼できるのは、やはり主治医をはじめとする医療専門家から提供される情報です。診断や治療方針について、疑問に思うことや不安なことは遠慮なく質問し、納得のいく説明を受けることが大切です。
インターネットで情報を検索する際は、公的機関や信頼できる医療機関のサイト、学会の公式情報などを優先しましょう。不確かな情報や個人の体験談に過度に振り回されないよう注意が必要です。正確な情報に基づいた理解は、漠然とした不安を具体的に捉え、冷静に対処するための土台となります。
「完璧な健康」を手放す勇気と、「できること」に目を向ける視点
私たちは若い頃のように、常に完璧な健康状態を維持できるわけではありません。加齢に伴う身体の変化や、何らかの病気と付き合っていくことは、人生後半においてはごく一般的なことです。「健康でなければならない」という固定観念にとらわれすぎると、かえって苦しくなってしまうことがあります。
ここで大切なのは、「完璧な健康」という理想を手放し、今の自分の体を受け入れる勇気を持つことです。そして、「できないこと」に目を向けるのではなく、「今、自分にできること」に焦点を当てる視点を持つことです。
例えば、以前のように長距離を歩くのが難しくなったとしても、「近所の公園まで散歩する」「部屋の中で軽いストレッチをする」といった「できること」に意識を向けます。病気と診断された場合も、病気の進行を止めることや、症状を緩和するための治療に取り組むことなど、「できること」や「コントロールできること」に焦点を当てます。
ポジティブ心理学の研究でも、困難な状況下でも希望を見出し、前向きな側面に意識を向けることが、心のレジリエンスを高めることが示されています。身体的な制約があっても、精神的な充実感や日々の小さな喜びを見つけることは可能です。
具体的な行動と周囲とのつながり
健康上の課題に直面したとき、立ち止まって悲観的になるのではなく、具体的な行動に移すことが心のレジリエンスを高めます。
- 医療との連携: 主治医と密にコミュニケーションを取り、治療計画や生活上の注意点について積極的に理解を深めましょう。
- 目標設定: 大きな目標である必要はありません。例えば、「毎日10分散歩する」「処方された薬を忘れずに飲む」「週に一度は友人と電話で話す」といった、達成可能な小さな目標を設定し、実行することで自己効力感(「自分にはできる」という感覚)を高めることができます。
- 主体的な取り組み: 可能な範囲で、生活習慣の改善(食事、運動、睡眠など)に主体的に取り組みましょう。専門家(管理栄養士、理学療法士など)の助言を求めることも有効です。
また、困難な状況を一人で抱え込まないことも重要です。家族や友人、地域の人々との温かい交流は、心の支えとなります。同じような病気や経験を持つ人たちの集まり(ピアサポート)に参加することも、共感を得たり、役立つ情報を共有したりする上で大きな力になります。専門家や相談窓口を積極的に活用することも検討しましょう。
心のセルフケアを忘れない
健康との向き合いは、時にストレスや疲労を伴います。だからこそ、意識的に心のセルフケアを行うことが大切です。
- 休息とリフレッシュ: 十分な睡眠をとり、心身を休ませましょう。好きな音楽を聴く、景色を眺める、香りの良いお茶を飲むなど、心が安らぐ時間を意識的に持ちましょう。
- マインドフルネス: 「今、ここ」に意識を向ける練習は、過去への後悔や未来への不安から一時的に離れ、心を落ち着かせるのに役立ちます。
- 感謝と小さな幸せ: 日常の中にある小さな良いことや、周囲への感謝の気持ちに気づく習慣は、心を前向きに保つ助けとなります。
まとめ:変化を受け入れ、自分らしく生きる力
高齢期における身体の変化や健康上の課題は避けられないことかもしれません。しかし、それらの変化にどう向き合い、どのように適応していくかは、自分自身の心の持ち方にかかっています。
健康診断の結果に動揺したとき、病気と診断されたとき、まずは自分の感情を認め、正確な情報に基づいて状況を理解することから始めましょう。「完璧な健康」を手放し、今の自分にできることに焦点を当て、主体的に行動することが、心のレジリエンスを高める鍵となります。
そして、一人で抱え込まず、周囲の人々や専門家の力を借りること、日々の生活の中で心のケアを怠らないことも非常に重要です。
身体の変化を乗り越え、病気と共存しながらも、自分らしく、心豊かに日々を過ごす力は、誰の中にも備わっています。この力を育て、人生後半をいきいきと輝かせていきましょう。