心を軽くする「書く」習慣:人生後半から始めるジャーナリング
人生後半の心の揺らぎと「書くこと」の可能性
人生後半に入りますと、これまでの生活から変化が訪れたり、将来への漠然とした不安を感じたりすることがあるかもしれません。体力や健康、人間関係や役割の変化など、様々な要因が心の状態に影響を与えるものです。時には、頭の中が整理できず、考えが堂々巡りになってしまうこともあるでしょう。
そうした心の揺らぎや不安に穏やかに向き合い、心のレジリエンス(回復力・弾力性)を高めるための一つの方法として、「書くこと」、すなわち「ジャーナリング」が注目されています。ジャーナリングとは、自分の感情や思考、出来事などを紙やパソコンに自由に書き出すシンプルな習慣です。特別な技術や才能は一切必要ありません。この「書く」という行為が、なぜ私たちの心に良い影響をもたらすのか、そして人生後半からどのように生活に取り入れられるのかをご紹介いたします。
なぜ「書くこと」が心に良い影響をもたらすのか
心理学や脳科学の分野でも、「書くこと」の効果は研究されています。自分の内側にあるものを外に出す、つまり文字にすることで、様々な肯定的な変化が期待できます。
1. 感情や思考の整理
頭の中でぐるぐる考えているだけでは、感情は絡まり、思考はまとまりにくいものです。しかし、それを「書く」という物理的な行為にすることで、頭の中から外へ出し、客観的に見ることができるようになります。まるで、 cluttered (散らかった) 部屋を整理するように、心の状態を視覚化し、一つずつ落ち着いて向き合う助けとなります。これにより、自分が何を感じ、何を考えているのかが明確になり、混乱が和らぎます。
2. ストレスや不安の軽減
辛い出来事や不安な気持ちを書き出すことは、感情を解放するカタルシス効果をもたらします。研究によると、感情や思考を定期的に書き出すことで、ストレスホルモンの分泌が抑えられたり、免疫機能が向上したりするといった身体的な効果も報告されています。心配事を書き出すことで、それが漠然とした塊から具体的な「問題」として認識できるようになり、「ではどうしようか?」と解決策を探る糸口も見つけやすくなります。
3. ポジティブな側面の再発見
ネガティブなことばかりではなく、嬉しかったこと、感謝していること、うまくいったことなどを書き出す習慣も、心のレジリエンスを高めます。日常生活の中にある「小さな良いこと」に意識を向けることで、自然とポジティブな感情が増え、幸福感が高まります。感謝日記や、その日の良かったことを3つ書く、といった短いジャーナリングでも効果があることが知られています。
4. 自己理解と自己肯定感の向上
定期的に書くことで、自分の考え方、感情のパターン、価値観などに気づきやすくなります。これは自己理解を深めることに繋がります。また、過去の経験や成功体験を書き出すことで、自分の強みや乗り越えてきた困難を再認識し、自己肯定感を高める助けとなります。
人生後半におけるジャーナリングのメリット
人生後半は、これまでの経験を活かしつつも、新しい環境や状況に適応していく時期です。ジャーナリングは、この移行期をより豊かに、そして心の安定を保ちながら過ごすための心強いツールとなり得ます。
- 変化への適応: 環境や役割の変化に伴う戸惑いや感情を書き出すことで、自分の内面と向き合い、変化を乗り越えるための心の準備がしやすくなります。
- 学びの深化: 新しい趣味やスキルを学んでいる場合、その過程で感じたこと、気づきなどを書き留めることで、学びが定着しやすくなります。
- 過去の棚卸し: これまでの人生で経験したこと、学んだこと、大切にしてきた価値観などを書き出すことで、自己肯定感を高め、将来の生きがいや目標を見つけるヒントが得られます。
- 将来設計の助け: 漠然とした将来への不安を具体的に書き出し、それに対して自分ができること、やりたいことなどを整理することで、前向きな将来計画を立てやすくなります。
ジャーナリングを始めてみましょう:具体的なステップ
「書くこと」を習慣にするのは難しそうだと感じるかもしれませんが、とてもシンプルなものです。
- 準備するもの: ノートや手帳とペンがあれば十分です。パソコンやスマートフォンのメモアプリを使っても構いません。自分が最も気楽に取り組める方法を選びましょう。
- 場所と時間: いつ、どこで書いても構いません。朝起きた後、寝る前、休憩時間など、自分が落ち着いて書ける時間を選んでみましょう。最初は1日5分でも構いません。
- 何を書けば良いか?
- 「フリースピーキング(自由記述)」: 今、頭に浮かんでいること、感じていることを、考えすぎずにひたすら書き出してみましょう。文法や誤字脱字は気にしなくて大丈夫です。
- テーマを決める: 「今日一番嬉しかったこと」「最近心配なこと」「これからやってみたいこと」「過去の楽しかった思い出」など、書き出しのテーマを決めてみるのも良いでしょう。
- 問いかけに答える: 「今の自分の気持ちは?」「今日新しく学んだことは?」「感謝している人は?」といった問いかけに答える形式で書くのも効果的です。
- 完璧を目指さない: 毎日書けなくても、長く書けなくても大丈夫です。「書こう」と思った時に、書きたいだけ書く、というくらいの気楽さで続けることが大切です。
- プライバシーの確保: 書いた内容は誰にも見られないよう、適切に管理しましょう。安心できる環境で書くことが、正直な気持ちを表現するために重要です。
まとめ:書くことを通じて自分自身と向き合う
ジャーナリングは、特別なスキルや知識を必要とせず、いつでもどこでも始められる心のケア方法です。感情や思考を「見える化」することで、心の状態を客観的に捉え、混乱を整理し、前向きな気持ちを育む助けとなります。
人生後半の様々な変化や不安に対し、書くことを通じて自分自身と丁寧に向き合う時間を持つことは、心のレジリエンスを高め、日々をより穏やかに、そして豊かに過ごすための力となるでしょう。完璧を目指さず、まずは小さな一歩から、「書くこと」を日々の習慣に取り入れてみてはいかがでしょうか。